五十音でめぐるワインの旅 <あ>アポニーグリーン /ハンガリー
「あ」
アポニーグリーン
ハンガリー / ヘレンド
窓の外に夜明けが訪れる。群青の闇に沈んでいた聖イシュトヴァーン大聖堂が東の空に黒いシルエットを描き出す。川沿いに並ぶトルコ風ドームの温泉から漏れた蒸気が立ちのぼり霞となって街を包む。はじめてハンガリーを訪れたのは2004年の1月。半年後にEU加盟を控えていた。
昼過ぎにヘレンドに向かった。レストランのサービスプレートで見て以来ずっと欲しいと思ってきたが、おいそれと手が出せる価格ではないため、「本場の」「EU加盟前の」ヘレンドになら可能性があるかもと期待をしながら。(皆さんもきっと、EU加盟後はたとえユーロにならなくても日本円に対して値上がり感があり溜息をついた覚えがおありだろう)
しかし、いくら本場ハンガリーでも、EU加盟前でも、おヘレンド様に簡単に手の届くものはなかった。お皿一枚くらいなら買えたが、一人暮らしじゃないんだからせめて二枚はほしい。でも予算は二枚にとどかなかった。
と、目に留まったのがボンボン入れだった。ころんとして可愛い。いいじゃないのこれ。デザインはアポニーを選んだ。ヘレンドグリーンをもっともシンプルに美しく表現していると思ったから。
寝る前に外すアクセサリー入れとして現在も愛用中、毎日、見るたびに、ドキドキしながら店のドアを開けたこと、ワイン産地エゲルに向かう途中の雪原に突如として現れた露天温泉の湯けむり、民主化後のハンガリーワインの問題点や現状を教授してくれた今は亡きワインメーカー、ガール・ティボルのことを思い出す。
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