五十音でめぐるワインの旅 <え>エリーチェのシチリア菓子/イタリア
え エリチェのシチリア菓子 / イタリア
豪勢な食生活とはほど遠い修道院が作ったものが、時をこえて今も多くのグルメに愛されているんだからすごい。クロ・ド・ヴージョのワインとかシャルトリューズのリキュールとか、日本では北海道のトラピスト教会のクッキーやバターとか。
シチリアにもありました、修道院のおいしいもの。シチリアにはワイナリーの取材で行ったのだけど、「シチリアをより知ってほしいから」とお店に連れて行ってくれたんです。本当にありがとう、チェウソ・ワイナリーのみなさん!
こういう、ワイナリー、ワインセラー、ブドウ畑、というお約束以外のものを体験することは、ワインを理解するうえでとても重要だと思う。だってやっぱり、ワインは文化であり歴史だから。ただの飲料水じゃないからさ。いくら事前に現地のことを予習しておいても、百聞は一見に如かずなわけですよ。
さてシチリアの修道院菓子に話をもどすと、トラーパニからロープウェイでサン・ジュリアーノ山をぐーんと登って着いたのは、空中都市と呼ばれる標高750メートルのエリチェ。古代、豊饒の女神の聖地として発展した場所で、往来が難しい場所だというおかげで中世そのままのような石畳とたたずまいが残っている。
まあとにかく、この中世都市そのままな景観のおかげで観光客もめっちゃ多いわけで、なかでもひときわ人だかりができていたのが、シチリア伝統菓子の老舗パスティチェリア「マリア・グラマティコ」でした。
店を切り盛りするのは最初の写真のマリアさん。彼女はエリチェのサン・カルロ教会の元修道女で、修道院で習ったレシピを守り続けているんだそう。マジパンで果物をかたどったフルッティ・ディ・マルトラーナや、シチリア名産のピスタチオやアーモンド、柑橘類を使った焼き菓子がショーケースにずらり。すべてマリアさん指揮下の職人さんのハンドメイド。日本人もよく修行に来るんだよとおっしゃってました。
シチリア菓子というと、カンノ-リやカッサータなどのこってり甘々なものが有名だけど、マリアさんのお店ではそういうものでさえ極甘ではなく、ぽくぽくとした(サクサクやザクザク、ふんわり、でもなく「ぽくぽく」。わかっていただけるかしら)素朴な口あたりで、なーんか懐かしい味わい。
で、お菓子を食べてオマエはシチリアの何を学んだワケ?と言われると、えへへ、お菓子おいしかったでーす、というふざけたことしか言えないんですが、でも、トロイの木馬の英雄アイネイアースがわざわざ立ち寄ったというエリチェの街で、ノルマン人が建造した城を眺め、ビザンチン装飾が施された教会で頭を垂れ、はるか昔に中東から伝わったアーモンドのお菓子を食べるとですね、文明の十字路として歴史を重ねてきたシチリアの奥深さが、ちょこっとわかったような気になるわけです。気にね。いいの、経験なんて積み重ねですから。一度ですべてを理解するなんてわたしには土台むりな話なんで。だから、ああまた積み重ねをしに早く海外に行けるようになったらいいなあと強く思うわけです。
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